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  • 執筆者の写真szkbksk5

日下部一司展〈風景を愛でる〉

更新日:2021年10月29日


日下部 一司 展

〈風景を愛でる〉

2021年11月2日(火)〜14日(日)

午前11時〜午後6時/最終日4時迄

月曜日休廊


ギャラリー勇齋

〒630-8372奈良県奈良市西寺林町22

Tel/Fax. 0742-31-1674

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  ごく小さな写真の展示です。それを手製の鉄フレームに入れて展示します。50点ほどの作品をほとんど資料展示のように淡々と等間隔に並べたいと思っています。


 展覧会のサブタイトルは「風景を愛でる」なのですが、「ファインダー越しの風景を愛でる」と言った方がいいかもしれません。つまり写真のルールに則って景色を眺め愛でるのです。

 

 目の前にある風景は、延々と切れ目なく続いています。今回、会場に写真をだらだらと並べたくなったのは、そういう景色の様子を真似ようと思ったからかもしれません。


 ムービーとは違い、スチールの利点は見たいものを自由に選べることです。無視もできるし凝視もできる。それは「風景を愛でる」行為に似ているようにも思えるのです。


[一瞬のムービー]

 時計の秒針を見ながら一秒間を体感したら、一秒は長いと感じた。

 ずいぶん以前になるが、Nikon F801の「僕は一瞬が長いと感じた」というフレーズのコマーシャルがあったことを思い出す。ブーメランを投げ、帰ってきたそれが頭上のリンゴを真っ二つに割り切るその瞬間をとらえる様子が動画で撮られていた。果汁が飛び散るその瞬間が鮮明に写る1/8000シャッター搭載、ニコンのF801は世界で初めて1/8000を搭載したカメラだった。

 このように一瞬は長いのである。すなわち1/8000であっても一秒を構成する時間の帯にすぎない。1/250というシャッター速度で撮ったこの写真は、1/250の動画でもある。



[写真と矩形]

 これらの写真にある黒縁は「オシャレ」な効果を狙ってつけているのではない。ネガに写っている画像を全部プリントできるように、ネガキャリアをヤスリで削っているからだ。つまり、トリミングをしていないという証拠をこの黒いラインで示そうとしている。

  ファインダーを覗きシャッターを切るとき、矩形を構成するすべてが過不足なく収まるように撮影したい。










[bokeh]

 事物そのものがぼけることはない。人間の目が、あるいはレンズの光学的機能がボケを生む。

 写真用語としての「ボケ」は、ピントが合っている部分以外に生みだされるボヤけた領域、それを意図的に利用する表現手法を指している。

 ボケという言葉は日本で生まれ、この概念や手法は日本国外で「bokeh」と呼ばれるようになった。パンフォーカスをよしとする欧米の写真にはなかった緩やかな対象把握の感覚がボケなのである。ボケは不鮮明でありながら、それ故に独自のリアリティを生む。そこが可笑しい。



[不鮮明]

 猿沢の池のほとりに立つ松の木を撮った。

 鳩の群れがやってきて松の枝と戯れている。風が吹いたら一斉に飛び立ち、また元に戻った。

 撮影には、米国レンズベビー社製のLensbabyというレンズを使っている。素朴な作りで、トイレンズの部類だと思う。したがってシャープさはないが、光軸をずらすことによって独特なボケが生じる。

 スマホカメラのようによく写るカメラを使っていたら、不鮮明な画像に惹かれるようになった。








[写真と油絵の具]

 写真と油絵の具といえば、明治期の写真家 横山松三郎を思い起こす。横山は印画紙を薄く剥ぎ、裏から油絵の具を擦り込み表面に現れる色合いを応用しカラー写真のような作品を作った。この技法は「写真油絵」として記録されている。

 写真の表面から着彩する方法もあった。「雑巾がけ」である。「雑巾がけ」はもともとは海外から印画の修正方法として伝わった技術を、大正期のアマチュアカメラマンたちが、写真表現の技術として用い、それぞれ趣の違う個性的な作品を制作した。

 レタッチのための技術を写真表現に用いたのは日本人だけだったようで、日本独自の技法として残った。当時はこの技法に正式名称はなかったようだが、今日では「雑巾がけ」と言う正式名称で呼ばれている。

 印画紙の表面に油絵の具を塗りつけ、布を使ってそれを拭き取る様子が雑巾がけに似ていることからいつのまにか「雑巾がけ」という技法名になってしまったようだ。今回展示した写真はこの「雑巾がけ」を用いて制作している。



[二分割]

 肉眼では左右に二分された風景に出会うことがない。しかし、写真や絵画など四角いフレームで対象を切り取るメディアではそれが可能になる。

 四角の中でどこをどのように画面配置し分割するかという意識が働き、黄金分割などの構図の考え方が生まれた。四角い形が造形原理を生み出す。そういう人間の知覚をおもしろいと思う。






[縦横比率]

 ハーフサイズの比率が好きだ。よく使うのは一眼レフのオリンパスペンFシリーズだ。オリンパスペンでは たくさん写真を撮ってきたけど、近頃はコニカ・オートレックスマーキュリーも使ったり している。

 オートレックスはフルサイズとハーフサイズが撮影途中でも切り替えられる面白さがある。それは一本のレンズ の画角が選べるということでもあり、この発想の転換はなかなか魅力的だ。撮りわけたネガを見ると一本のネガに2種類の大きさの写真が写っている。

 マーキュリーはなんと言ってもそのルックスからだ。ロータリーシャッターを採用していることを誇らしげに主張するかのような円弧を描くデザインは魅力的だと思う。

 ともあれ、ファインダー比率が被写体の切り取り方を決める。正方形でしか撮れない場所や、35ミリサイズのやや横長の方が良いときもある。私の場合は、ハーフサイズの比率が一番使い安い。画面に無理がないのだ。カメラを水平に構えたときの縦型画面が見やすいこともある。人間の視野には横型の画面が自然であるとよく言われるが、私の場合は縦型が良い。縦画面で風景を見ると被写体に緊張感が漂う。



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